レンズの性能について語ると、かならず出てくるキーワード「収差」。
難しそうに聞こえるので、敬遠されがちな収差ですが、レンズを選ぶうえで重要な指標になります。
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フジト
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本記事では、レンズにおける収差について、以下の内容について解説します。
イメージを膨らませやすいように、画像や図解をおおく用いているので、レンズの知識がない人も安心して読み進めてください。
レンズの収差とは?
レンズは外部からの光を1点にあつめて、カメラ内部に像を作り出します。
しかし、レンズも完璧ではないので、像にズレが生じることがあります。
このズレが収差と呼ばれ、できあがる写真にさまざまな影響を与えるのです。
シンプルに表現するのであれば、実物の見た目との差です。
レンズで収差が生じる原因
レンズに収差を生じさせる原因はさまざまです。
それぞれ分かりやすく紹介します。
光の波長
出来上がった写真を確認すると、被写体の色がにじんで見えることがあります。
理由は、光の波長(色)によって屈折率が異なるので、焦点を結ぶ位置が変わってしまうからです。
例えば、波長がみじかい光は、ながい光に比べて手前で像を結びます(軸上色収差)。
図のように、青色光は他の光にくらべて、光軸上の手前で焦点を結ぶのです。
他にも、撮像素子上で像がズレることがあります(倍率色収差)。
この場合も、波長による屈折率のちがいが原因で、各色の像がズレるのです。
ちなみに青色光はよく曲がるので、一番はなれた位置で像を作っているのが分かります。
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レンズの形
収差の原因になるレンズの形状で、代表的なのは球面レンズです。
球面になっているので、図のように焦点にズレが生じてしまうことで、光が1点に集まらない球面収差が生じます。
これを解決するために存在するのが非球面レンズです。
球面レンズには「平行光線を完全な形で一点に収束させられない」という理論的宿命があった。この課題を克服するために、光を一点に集める理想的な曲面、つまり球面でない曲面を持った「非球面レンズ」が考え出されたのである。
―「Canon」より引用―
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光の入り方
レンズに対して斜めから光が入ると、周辺部の像に異常が出やすくなります。
具体的には、像が楕円(非点収差)になったり、彗星みたいに尾をひいた形状(コマ収差)になりがちです。
広角レンズを購入するまえは、性能やユーザー評価をよく調べてから選択するのがオススメです。
収差の対策方法
レンズの収差を軽減させる方法をまとめました。
それぞれ詳しく解説していきます。
収差の少ないレンズを使う
収差の少ないレンズは、以下のような特徴を持ちます。
- 良い素材を使っている。
- レンズや絞りの配置が良い。
- 凹凸レンズの組み合わせ方が良い。
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配置や組み合わせについては、レンズ設計などに関わらない限り、深い理解は必要ありません。
本記事では、収差の軽減効果があるレンズの素材についてのみ紹介します。
効果 | |
---|---|
非球面レンズ | 球面収差の軽減 |
異常分散ガラス | 色収差の軽減 |
蛍石 | 色収差の軽減 |
上記の素材は、収差補正のためにレンズに用いられることが多いです。
ただし、同じ種類の素材を使用していても、製品によって性能差があります。
例)SONYの最高級クラスの非球面レンズの場合。
「超高度非球面XA(extreme aspherical)レンズ」
研磨が非常に難しい形状の非球面レンズの表面を、0.01ミクロン単位という高い精度で管理することで生まれた超高度非球面レンズです。非球面レンズで発生しやすい輪線ぼけを大幅に低減し、美しいぼけ味を損なうことなく高い解像感を実現します。
―「SONY」より引用―
このように、非球面レンズで発生しやすい問題を軽減したような製品も存在します。
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また、レンズの収差補正状況を示す専門用語も存在するので、以下にまとめました。
効果 | |
---|---|
アナスティグ マート | 球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲を除いた状態 |
スティグ マート | 球面収差、コマ収差、非点収差を取り除いた状態 |
アプラ ナート | 球面収差とコマ収差をとり除いた状態 |
アクロ マート | 赤,青の光を同じところに集光させた状態 |
アポクロ マート | 赤,緑,青の光を同じところに集光させた状態 |
レンズを絞る
レンズを絞る(F値を上げる)のも、一部の収差に対して軽減効果があります。
なぜなら、F値をあげることで、レンズの有効径を減らすことができるからです。
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図のように、絞るとレンズ周辺部からの光がカットされるので、結果的に有効径を減らすことになります。
つまり、収差が発生しやすい場所を通過する光をなくしてしまうと言うことです。
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撮影後に補正をかける
一部の収差に対しては、撮影後にPhotoshopなどのソフトで補正可能です。
これらの収差は補正が効くので、レンズの設計時にあえて軽視している製品もあるようです。
収差の種類
レンズの収差は、おおきく分けて2つに分類されます。
- 単色光で生じる収差(5種類)。
- 光の波長のちがいで生じる収差(2種類)。
単色光で生じる収差は、ドイツの数学者の名前にちなんで「ザイデルの5収差」とも言います。
たいして、光の波長のちがいで生じる収差は、「色収差」です。
種類 | 特徴 | |
---|---|---|
ザイデルの 5収差 | 球面収差 | 軸上で光が1点にあつまらない |
非点収差 | 縦・横方向で像の位置がズレる | |
コマ収差 | 光軸外で点像が尾をひく | |
歪曲収差 | 歪んだ像ができる | |
像面湾曲 | 湾曲した像ができる | |
色収差 | 軸上色収差 | 色によって結像位置がズレる |
倍率色収差 | 色によって像の大きさが異なる |
それぞれの収差について、詳しく解説していきます。
球面収差とは
球面収差とは、本来1点にあつまるハズの光が前後にズレてしまい、像がぼやけてしまうことです。
球面収差は、写真の中心部で生じるのが特徴で、球面レンズを使用すると必ず発生します。
球面収差の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | ○ | × |
球面収差は、非球面レンズを用いることで改善可能です。
ただし、「収差の少ないレンズを使う」で解説したように、同じ非球面レンズでも製品によって性能差があります。
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非点収差とは
非点収差とは、レンズの縦方向と横方向を通る光が前後にズレて、像がぼやけることです。
専門用語を使うのであれば、「メリジオナル面とサジタル面の最集光点がズレる」となります。
特徴 | |
---|---|
メリジオナル面 | 光軸と主光線をふくむ面 |
サジタル面 | メリジオナル面に垂直で 主光線をふくむ面 |
ちなみに「主光線」は、光軸から離れた場所から出る光線の中心。
「光軸」は、レンズの中心を垂直にとおる線です。
ただし、写真を撮ったり、レンズを評価するうえでは、これらの用語への深い理解は必要ありません。
非点収差は、レンズを通過する光が縦&横方向でズレる、という認識で問題ないでしょう。
非点収差の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | △ | × |
残念ながら、非点収差はF値をあげたとしても、おおきな改善が期待できません。
なぜなら、非点収差の広がりはレンズの画角に大きく影響されるので、有効径を減らしても効果が薄いからです。
つまり、F値をあげても、広角なレンズには非点収差のリスクが付きまとうことになります。
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コマ収差とは
コマ収差とは、斜めから入った光が1ヶ所に集まらず、尾を引いた彗星のような像をつくることです。
図をみると、レンズの中心を通る光と、周辺部の光がつくる像の大きさや位置が違うことが分かります。
これはレンズの中心部と、周辺部の倍率が異なることが原因で起こる現象です。
彗星の小さい円を「頭」、大きな円を「尾」と呼び、それぞれ明るさも異なります。
図のように彗星は、頭が一番明るく、尾に向かうほど暗めです。
彗星のかたちは、レンズの屈折率によって異なり、像が光軸の外側に出る場合を正のコマ、内側に向かう場合を負のコマといいます。
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コマ収差の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | ○ | × |
コマ収差は、さきほど紹介した非点収差とちがい、F値をあげることで改善が期待できます。
なぜなら、コマ収差は「レンズの有効径」に大きく影響されて広がるからです。
F値を大きくするほどレンズの有効径が小さくなるので、収差を減らすことができます。
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歪曲収差
歪曲収差(ディストーション)とは、本来四角であるハズものが歪んで写ってしまう収差のことです。
「タル型に膨らむ」、「糸巻き型に凹む」の2パターンが存在します。
それぞれの歪曲収差の特徴をまとめました。
特徴 | 発生しやすいレンズ | |
---|---|---|
タル型 | 中央部が膨らむ | 広角レンズ |
糸巻き型 | 中央部が凹む | 望遠レンズ |
さらに、タル型と糸巻き型の特徴を併せ持った、陣笠型の歪曲収差も存在します。
「タル型」のように中央部が膨らみ、「糸巻き型」のように凹みも存在します。
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歪曲収差の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | × | ○ |
歪曲収差は、画角にかなり大きく影響されるので、広角なレンズになるほど現れやすいです。
レンズの有効径は歪曲収差に関係ないので、F値をあげても意味がありません。
また、絞りの位置によって歪曲収差の出方や種類が変化します。
絞りが被写体側にあるときは「タル型」、カメラ側にあるときは「糸巻き型」の歪曲収差が発生しやすいです。
これらの歪曲収差はレンズの組み合わせや、絞りの位置を調整することで改善可能ですが、あえて無視してある製品もあります。
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また、自動で歪曲収差を補正しながら撮影できるカメラも存在します。(例:SONYのレンズ補正機能など)
像面湾曲
像面湾曲とは、TVモニターや絵画のような平面状の被写体を撮影したさいに、結像が曲がってしまう現象です。
光軸から離れていくほど像が前に出てくるので、図のように湾曲した「ペッツバール像面」になります。
ペッツバール像面の特徴をまとめました。
- 中央にピントを合わせると周辺がボケる。
- 周辺にピントを合わせると中央がボケる。
- 周辺の像は中央よりレンズ側に出てくる。
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像面湾曲の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | △ | × |
像面湾曲は非点収差と同じように、F値をあげても大きな改善は期待できません。
理由も同じく、「レンズの画角」による影響が大きいからです。
なので、像面歪曲を補正できるレンズを選ぶことが重要になります。
ちなみに、この条件を達成するには、屈折率がプラスの凸レンズとマイナスの凹レンズを使用しなければなりません。
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軸上色収差
軸上色収差とは、光の波長が異なることが原因で、像の位置が光軸上でズレてしまう現象です。
「光の波長」で解説したように、波長によって色は異なり、それぞれ屈折率がちがうので像の場所がバラけてしまいます。
軸上色収差の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | △ | × |
軸上色収差は、色消しレンズを使用するのが最も効果的な対策です。
「色消しレンズ」
色収差を補正した組合せレンズ。色収差を補正するために,レンズの材質,屈折面の曲率半径,レンズの配置などの間で満たされるべき条件を色消し条件という。
―「コトバンク」より引用―
色消しレンズの種類を以下にまとめました。
- アクロマート。
- アポクロマート。
「アクロマート」は、赤青の2色をおなじ場所に集光させます。
それに対し、「アポクロマート」は、赤青緑の3色をおなじ場所に集めることが可能です。
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倍率色収差
倍率色収差とは、斜めから入ってくる光から出来る像の高さが、光の波長ごとにズレてしまう現象です。
波長のみじかい色ほど曲がるので、より高い像が出来上がります。
斜めからの光が原因なので、画像の中心部には現れず、周辺部でのみ発生するのが特徴です。
倍率色収差の対策
収差の少ない レンズを使う | レンズを絞る | 撮影後に補正 | |
---|---|---|---|
対策 方法 | ○ | × | ○ |
倍率色収差も、軸上色収差とおなじように、レンズで補正をかけて対策をするのが有効です。
具体的には、異常分散ガラスなどを用いて、赤青緑の3色を補正します(アポクロマート)。
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レンズの収差まとめ
本記事では、レンズの収差と原因と対策について紹介しました。
収差についての理解が深まると、所有するレンズの癖をコントロールしながら、良い写真を撮れるようになります。
それでは以上です。フジトでした。